2011年3月31日木曜日

ジェネリック医薬品の開発②。

ジェネリック医薬品は本当に安く作ることが出来るのか、ということについて考えてみたいと思います。製造、の問題なので、基本的にはスケールメリットの話になるでしょうか。

ところで2010年度から数量ベースで一定の割合を超えると薬局の診療報酬が上乗せされるという制度が始まりました。この制度で得をするのは基本的に調剤薬局ということになります。注射剤は対象外ですし、DPC(診断群分類包括評価:Diagnosis Procedure Combination)病院なんかはそもそもまるめなので替えられるものはすでに替えているという状況もあると思います。薬局が販売に力を入れるのは外来患者さんなので、処方される薬も飲み薬(経口剤)が主流となるわけです。

という背景から、経口剤について考えてみましょう。

経口剤の種類は、大きく5つあります。
①素錠(普通錠・OD錠)
②フィルムコーティング(FC)錠
③糖衣錠
④散剤(ドライシロップ)
⑤フィルム製剤

最近の剤形を見ると、多いのは素錠とフィルムコーティング錠でしょうか。

一昔前は、臭いや苦味、光による劣化を防ぐために糖衣が用いられていました。糖衣は、「正露丸糖衣A錠」や「アリナミン」などのビタミン製剤に多く使用されていますが、作業が煩雑であることや錠剤の大きさが増すことから医療用医薬品にはあまり使われていません。

フィルムコーティングは、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)などのセルロース誘導体を使用して、非常に薄い膜を錠剤にコーティングする技術で、コーティング時間も短く済み、容易に安定化された錠剤を製造することが出来ます。余談ですが、このヒプロメロースの供給は信越化学工業が独占しているため、工場爆発事故なんかのときには医薬品製造現場は供給不安でいっぱいだったことを覚えています。

話を剤形に戻します。一昔前は特許戦略として、先発メーカーが普通錠にOD錠を追加するということが多々ありました(最近でもあります)が、現在は薬剤師の判断によりOD錠の処方をジェネリック医薬品の普通錠を処方することも出来るよう制度が変更されため、患者さんにメリットがなければこの戦略は意味を成さなくなっていると思います。ガスターは特許戦略としてガスターD錠を発売し、売上を普通錠からOD錠にシフトし価値の最大化を図りましたが、最近発売されたアクトスODなんかは、どれだけ売上増に答えられるかは未知数です。薬剤師が先発製剤の剤形を変更可能ということは、小手先の剤形変更による価値の最大化は今後のLCM戦略として向かないということになっています。

反面、この制度はジェネリック企業にとっては差別化のために大いに意味があります。というのは、ジェネリック医薬品企業が先発製剤と異なる剤形を開発することが可能となるからです。最近の例で有名なのは、アムロジピンODフィルム「興和テバ」(先発名:アムロジン)とプランルカスト「EK」(先発名:オノン)でしょうか。

前者は、ブレスケアなんかに使われているフィルム技術を救急薬品工業と提携し医薬品に仕立て上げたものです。もちろん、ブレスケアみたいな包装にすることは出来ませんから、一枚ずつ取り出せるような工夫が必要となりますが、患者さんのQOLを考えると売れるかは別としていい製剤だと思います。後者は、これまでカプセルやドライシロップしかなかった製剤を錠剤にした、ただそれだけですが、こちらは一包化(することはないかもしれませんが)しやすいといった薬剤師がわのメリットがあるでしょうか。ジェネリック医薬品企業にとっては、製造コストが下がるというメリットもあるでしょう。

このように、真似することが可能な製剤技術は制度的にも先発メーカーではなく後発メーカーに有利になっており、今後は剤形ではなく、薬の効き目などの科学的根拠で差別化する必要がありますね(クラビットがいい例でしょう)

長くなりましたので製造コストと開発戦略について次回書くことにします。

2011年3月27日日曜日

ジェネリック医薬品の開発①。

ジェネリック医薬品について思うことはありますか?これから圧倒的普及することが見込まれるジェネリック医薬品について開発の立場から少しばかり書いてみたいと思います。大真面目に書いているので、少しでも日本のジェネリック医薬品に対する理解が深まってもらえたらと思います。

今回はまず、ジェネリック医薬品そのものについて紹介します。

ジェネリック医薬品は、ブランド医薬品(先発製剤)の特許が満了した時点より発売が可能となる、安価な医薬品のことです。ジェネリック医薬品は、高くても先発製剤より30%以上安いことが制度として決まっています。先発製剤が100円だったら、ジェネリック医薬品は70円以下で必ず買うことが出来ます。この薬の「30%引き」、という点が、患者さんにとってメリットになります。

となると、ユーザーとしては「3割引きで品質は全く問題ないのか」、ということが気になると思います。

一般的には、特許が切れることによって該当物質を自由に使うことが出来るため、医薬品の開発費用がほとんど必要ないから、と説明されることが多いように思います。確かに、先発製剤を開発するためには2010年時点で500~1000億円程度必要というデータがあるわけですからそれらの費用がかからないことは安くなる原因となるように思われます。

ボクの考えは違います。

「安く出来る」のではなく「安いもの」と決まっているというだけなのです。医薬品業界はPESTといったマクロ環境においてはPolitics(政府・規制)をもろに受ける業界であり、ジェネリック医薬品も3割引以上しか認めないと決められているからジェネリック医薬品企業はその価格にせざるを得ないのです。

つまり、先発医薬品どうしの比較では、全く同じ成分はほぼないわけですから、医薬品の選択は有効性などの科学的根拠に起因することとなります。ここでの意思決定機関(DMU)は「医師」となります。ところが、一旦ジェネリック医薬品が発売されると、医師は、ジェネリックor NOTを決めるだけで、実際の医薬品の製造元を決定するのは薬剤師となります。そうなると、DMUは「医師→薬剤師」の2段構えに変化するのです。そして意思決定事由も、科学的根拠→経済的根拠に変遷していくのです。

例えば、医師が高血圧の薬剤を処方使用とする場合、科学的根拠としてCaブロッカーがいい場合は、アムロジン、ARB(アンジオテンシン受容体ブロッカー)がいい場合はディオバンが選ばれるとします。次に医師が薬剤師に対してジェネリック医薬品に変更がダメなら処方箋に「ハンコ」を押す必要があります。薬剤師はジェネリック医薬品に変更可能な処方箋に対して、その薬局で採用したジェネリック医薬品(例えばアムロジピンベシル酸塩「サワイ」)を渡すことになります。

薬局の採用事由としては、ジェネリック医薬品の薬価ではなく、医薬品の品質・薬局への納入価格の2つが大部分を占めていますが、そのあたりは長くなるのでまた次回に回したいと思います。