2020年4月21日火曜日

ICER(アイサー)とはどんな組織か?

医療経済学の中でICERというと、普通は「Incremental cost-effectiveness ratio」というのが出てきますが、今回取り上げるのは「Institute of Clinical and Economic Review」という組織のことです。
Incremental cost-effectiveness ratioというのは、前回のQALYのときにも触れた概念なのですが、1QALY得るのにいくらかかるのか、ということと思っていただければよいです。
さて、Institute of Clinical and Economic Reviewですが、米国マサチューセッツ州ボストンにある独立研究機関でして、設立は2006年です。2006年頃というのは、抗体医薬など生物学的製剤が続々と市場に投入されていた時期なので、そういった需要があったのでしょう。最近の米国では希少疾患の医薬品が増えていることもあって医薬品の価格が高騰しています。記憶に新しいのは、Novartis社(創製はAvexis社)が承認を取得した「ゾルゲンスマ(Zolgensma)」という脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy(SMA))の遺伝子治療薬で、価格が2億円!!です。こういった2億円という価格が適正なのか、もっと高くてもいいのか、それとも安い方がよいのか、といった価格設定は製薬会社自身ではなく、やはり第3者が算出した方がよいよね、という考えは皆さんにもなじむんじゃないか思います。ですので、第3者の視点から価格を計算するICERは、「watch dog of drug pricing(医薬品価格の番人)」と呼ばれています。最近の傾向ですと、自由薬価の国アメリカ、といえどICERが計算した金額より高い価格を設定する製薬会社はなく、先ほどのNovartis社のゾルゲンスマもICERが2億円が適正価格だ、とのレポートを出したので2億円になっています。そうじゃなければ5億円の販売価格になっていた可能性大です(ゾルゲンスマの事例は近い将来取り上げる予定です)。
ただ、こういった独立機関を運営するにもお金は必要です。どういったお金の出所になっているのか、そういった内容もすべて公表されています。
無題
大半は、非営利の財団からのお金で賄われていますが、製薬会社からのFundingもあります。面白いのは、Allergan、Alnylam Pharmaceuticals
AstraZeneca、Biogen、Boehringer-Ingelheim、Editas、Genentech、GlaxoSmithKline、Janssen、LEO Pharma、Mallinckrodt Pharmaceuticals、Merck & Co.、Novartis、Prime Therapeutics、Regeneron、Sanofiといった名前を連ねている会社は比較的高額医薬品を出している企業が多いということです。Editasはゲノム編集のスタートアップ企業ですが、まだ上市した製品がないにもかかわらず、将来的な価格設定に備えてか、fundingをしています。(Fundingが有利な価格設定に結び付くわけではありませんが、どういった計算根拠となるのか、会議への参加や傍聴ができれば、エンドポイントの設計など臨床開発戦略にも活かせるのかもしれません)。
次回は、ICERが採用しているの価格計算フレームワークについてご紹介する予定です。

2020年4月10日金曜日

QALY(クォリー)とは何ぞや?

Quality-adjusted life year, QALY、日本語で言うと、質調整生存年(しつちょうせいせいぞんねん)のことで、生きている期間において量と質の2点を評価する手法のことです。医薬品の価格や医療行為に対しての費用対効果を経済的に評価する技法として用いられています。
これだけきいてもわからないと思うので、具体的な話をしていきたいと思います。前提として、1QALYは、完全に健康な1年間に相当します。もしある人の健康が完全ではないならば、その1年間は1以下のQALYとして算定され、死亡すれば0QALYと算定されます。いくつかの状況ではマイナスのQALYも算定され、それはその健康状態が「死亡よりも悪い」ことを意味します(どんな状況でしょう、きっと生きているのが辛すぎる状況でしょう)。
もう少しかみ砕いてみると、生活の質、というとき、Quality of Life(QOL)という言葉があります。QOLが上がる、QOLが下がる、こういった使い方をしますが、QALYは、QOL×時間(年)であらわされるものです。QOL自体は上がったり下がったりするもので、0~1の間で計算されます。新しい家を買って、快適になったときもQOLは上がりますが、今回、対象とするQOLは自身の健康状態に関してのみで、それ以外の要素は反映されません。
無題
皆さんが、病院へ行こう、薬を飲もう、というモチベーションは、「元気に」「長く」生きたいから、という理由に他ならないと思います。そこで医療行為や薬に対してお金を払う訳ですが、その効果に対して、いくらの金額がが妥当か、というのが医療経済学の考えで、治療しない場合が水色、治療する場合に黄緑色分、いいことがある、その金額を計算しよう、というスタンスです。日本では人の命に値段をつけるなんて、という考えが主流なので使われていませんが、欧米ではQALYがどの程度向上するのか、をベースに医薬品価格を決めることがあります。
ただ、そもそもQOLを0~1の間で示すって簡単そうですが、どうやってやるのでしょうか、というのが新たな疑問かと思います。QOLを計算する手法はいろいろありますが、最近よく使われるのは、EQ-5D-5L (EuroQOL 5 dimensions 5-level)です。EQはEuroQOL、というヨーロッパの団体が作成している基準でして、5つの項目(Dimension)、5つの段階()level)、で決めます。移動の頻度、身の回りの管理、普段の活動、痛み/不快感、不安/ふさぎ込み、という項目を5段階でヒアリングして確定します。(参照:池田 et al.:保健医療科学 2015 Vol.64 No.1 p.47-55)
あとは、得られるはずのQALYに対していくらお金を払うのか、という値付けの問題ですが、民間保険が中心のアメリカは、100,000~150,000ドル(約1千万円~1千5百万円)、国民皆保険のイギリスは20,000~30,000ポンド(約260万円~400万円)となり、国によって全く異なる値付けと思います。このようにアメリカの市場においては、差別化が可能そうな医薬品に関しては高く値段設定ができるので、様々な製薬会社がまずアメリカ市場へ参入しようと考えるわけです。次は、アメリカの薬価の具体的な事例について書いていければと思います。

2020年1月2日木曜日

2019年の米国FDA承認医薬品

昨年米国に拠点を移した、ということで米国の製薬業界について書いていこうかと思います。日本にいると、製薬業界の研究職の魅力や将来性についてネガティブな意見を聞くことが多く、製薬業界の将来が暗いようなイメージを受けます。また、バイオバイオしていて日本が従来得意であった低分子創薬は無理になった、というふうなこともちらほら聞きます。

ただ、2019年のFDAの承認するは48化合物(詳しくはこちら)。
驚くのはそのうち23個が低分子化合物。

中身を見ていくと、日本企業創製の化合物が5個。
Enhertu:fam-trastuzumab deruxtecan-nxki(第一三共):乳がん
Dayvigo:lemborexant(エーザイ):不眠症
TissueBlue:Brilliant Blue G Ophthalmic Solution(デウエスタンセラピテクス):
Fetroja:cefiderocol(塩野義)
Nourianz:istradefylline(協和キリン)

日本企業が承認を取得した化合物が
Padcev:enfortumab vedotin-ejfv(アステラス/シアトルジェネティクス)
Turalio:pexidartinib(第一三共/ Plexxikon)

また、最も多く承認を取得したのはNovartisでした。
Egaten:triclabendazole:
Mayzent:Siponimod:再発性多発性硬化症
Piqray:alpelisib:乳がん
Beovu:brolucizumab–dbll:進出型加齢黄斑変性
Adakveo:crizanlizumab-tmca:鎌状赤血球
NMEには上がってませんが、Avixis創製のZolgensmaもNovartis。

韓国企業であるSK社、中国企業であるBeigene社もそれぞれ
・Xcopri(cenobamate)
・Brukinsa(zanubrutinib)
の承認を取得しており、今年もアジア企業の動向から目が離せません。

参考まで、まとめた資料はこちらから

2019年11月9日土曜日

米国に拠点を移しました。

しばらくブログを放置していましたが、夏に米国へ移住しましたので、ぼちぼち書いていこうかと思います。
9月から新学期が始まるので、近所にあるYale大学のカレッジ(ハリーポッターに出てくるグリフィンドールとか)毎に新入生を受け入れる仕組みがあります。知りませんでしたが、米国の大学の学部生は一人暮らしをして通うというものではなく、有無を言わさずレレッジに入る必要がある、ということだそうです。

さて、私のミッションと言いますと、とある医薬品の米国展開のために赴きました。こちらでの役割は臨床試験と薬事であり、いわゆる製薬会社の根幹となる役割と思っています。これから薬事コンサルやFDA、CROなどとの付き合いも始まってくると思うのでとても楽しみな毎日が待っています。ブログを復活させるに当たって、米国市場の製薬、医療機器、健康保険、ベンチャー(スタートアップ)、投資、を重点テーマにしてみます。



2016年3月16日水曜日

久しぶりの投稿。

前回のポストが2014年6月なので、この2年弱はいろんなことがあったなぁと振り返るとともに、もうすぐ迎える新年度がさらに激動になりそうです。

年齢もアラフォーがひたひたと静かに近づいてきておりますので、カラダのケアもしながら、公私ともに取り組んでいきたいのですが、私自身会社に入って最も長い勤務地となっているのでこれもぼちぼちどうにかしようか、とも思っているところです。

地道にやってきた内容はお金で買えない経験・思考であったとも思いますが、MBAを取ってるともっとよかったのか、とも思えますが、その時・その場所で、というのはかけがえのないものなので、後悔はなく、Openにやっていきたいと思います。

ブログを書いている余裕もありませんが、FBも長い投稿を書くにはなぁと思うので久しぶりに復活してみました。読む人も少ないかと思いますが、ちょっとずつ、やってみます。

2014年6月20日金曜日

見せる背中がある。

6月ということで、中間評価を絶賛開催中であります。それに加えてTOEICの結果も帰って参りました。

TOEICについては、これまで870点でそれなりと思っていたところ、先日東京で飲んだときに900点台の方々がいて悔しいなと思ったため、自分自身との戦いでありました。結果935点ということで、ようやく肩を並べられたな、と勝手ながらに解釈しております。少なくともベトナム人含めて会社でトップを保てましたので、見せる背中が少しは出来たと思っています。

さて、中間評価をしてみると、これまたいろいろと個性がでるなぁと思います。

一番びっくりしたのが掃除のおばちゃん。
もちろんボクの部下なので、年上ではありますが、きっちりと面談をしたところ、、、、、泣かれてしまいました。。。

え、えぇーーー、ってなったところ通訳スタッフに聞くと、
「いろいろと気遣ってくれて本当にありがとう」
ということでの感動泣きだったそう。
職業に多少の貴賤が感覚としてあるのでしょうね、ベトナムは。今までの職場ではそういう対応をされなかったということのようです。

ボクも初めての管理職ですので、ケアもしながらそれぞれの責任範囲に関してはしっかりと指導していかないといけないですね。

2014年6月3日火曜日

恣意的。

ベトナムでの経理処理も私の担当ではありますが、そんなんあり、ということが非常に頻繁に起こります。

直近であったのが、


「Depreciation expense of fixed assets not used for activities of production and business of goods and services.」
 In this case, at present,depreciation of  Fix assets not used for business purpose shall be recognized as invalid expense for CIT purpose.

ということであり、基準を満たしたら減価償却をしなさい。だけど、商業生産してないのなら損金に入れちゃダメよ、ということ。もちろんビジネス通念上、固定資産は価値を生み出すために導入するのであるし、製造に使わないなら買わなきゃいい、ということで適正な企業運営に繋がりそうな気もするといえばするのですが、こちらにはこちらの事情もある訳で、その辺、損金に入れさせてよ、という方が強いと思います。

一般的に、ベトナムでは損金算入のルールが厳しく、

・発注書が必要
・納品書が必要
・領収書が必要
・通関書類が必要
・固定資産であれば据え付けなどの引き渡し図書が必要
(しかもそれらに一字たりとも間違いがあってはならない。)

だったりして、経理処理により一層の手間ひまがかかるわけ。
勘定コードにしても国が決めちゃってるから会社で自由に番号付けが出来ないから
世界共通システムの障害にもなったりするし。

とかいって、そういう法律がコロコロ変わるし。

こういうところでの仕事というのは効率も悪いし、世界標準を使ってないし、今後どうやって活かすことの出来るスキルなのか、ということを考えてみたとき

・今後のびてくるだろう新興国(別の国)で活かす
・さまざまな理不尽な問題への対応力を先進国で活かす

ということに尽きるかなと・・

ちなみに減価償却期間はかなり幅があり、恣意的な費用計上も出来そうな勢いです。